
公的介護保険の抱える問題点
入居待ちの期間は施設の形態によって様々
現在「入居待ち」が特に問題になるのは、介護保険施設である「特別養護老人ホーム(特養)」「介護老人保健施設(老健)」「介護療養型医療施設」です。これらは安価でサービスを受けることができるため、入居の申し込みが後を絶たず、100人待ち~数百人待ちという状況が続いています。
2014年3月の時点で、特養の待機老人は52万人を超えています。現在の特養利用者とほぼ同人数の待機者がいるのです。実際は、複数の施設に同時に申し込むため、実際の順番待ちはこれより少ないこともありますが、「入りたい」と思った時にすぐに入れないのが現状なのです。
一方、有料老人ホーム等の施設は介護保険施設に比べて入居待ち期間はかなり短いです。しかし、月額利用だけでなく入居一時金の負担がかなり重くなってしまい、入居できない高齢者も多いのが実情です。そこで、現在注目が集まっているのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」です。国は、2020年までに60万戸を建設することを目指しています。
しかし、いずれにおいても入居できるようになるまでは、訪問介護等のサービスを利用しながらの在宅介護を行う必要があります。
空きがあるのに入居待ちが発生する?
入居待ち問題の発生要因は、施設自体の絶対数の不足もありますが、他の側面もあります。
それは、介護する側の深刻な人材不足です。たとえベッドに空きがあり、そこに利用者を受け入れることで施設の売上も上がるという状況においても、サービスを提供するための人材が足りずに断ってしまう施設も少なくありません。
人員不足が受け入れ可能数の低下に繋がるという悪循環が起こっているのです。
介護に携わる環境を改善しなければ、施設だけたくさん出来ても入居待ち問題は解決しないというのが現状です。
施設の抱える問題
介護施設は様々な種類があり、全国に多数ありますが、現在無認可で営業している介護施設が問題になっています。
ここでは、問題の現状と背景をまとめてご紹介したいと思います。
無認可の介護施設問題
無認可の介護施設とは
無認可の介護施設とは、その名の通り厚生労働省や都道府県知事の認可を得ていない(届け出をしていない)介護施設のことです。「無届け介護ハウス」という名称で呼ばれることもあります。
なぜ無認可介護施設が多く存在するのか
まず、前提に高齢者の受け入れ先が不足しているという点があります。しかし、介護施設として認可を受けたり届出を行うためには、人員基準や施設基準といった厳しい条件をクリアする必要があります。そのためにはかなりの初期投資が必要なため、認可を諦めて無届で運営を始める施設が少なくありません。
介護施設に比べてかなり安い料金で入所できるため、他の施設に入居できない高齢者の受け皿として自治体から紹介があることもあるようです。無認可介護施設の収入源としては、利用者から徴収する生活費に加えて、訪問介護報酬があります。同じ設備に訪問介護事業所を設けることで、訪問の手間なく効率的なサービスを提供し、その分の介護報酬を受け取ることができるのです。
しかし、こういった介護費用の増加を予期していなかった自治体も多く、財政の厳しさに苦しんでいます。例えば、旭川市では介護費用を抑えるために公的な介護施設を制限していたにも関わらず、無認可介護施設が乱立したために、毎年10億円以上介護費用が増え続けているようです。
無認可介護施設の問題
自治体だけでなく、入居者自身にもトラブルを与える場合があります。認可を受けていないということは、サービスの質が保たれていないということです。事業者がより儲けるために、経費節減をしてサービスの質を落とし、劣悪な環境での生活を強いられる場合もあります。
また、安全や衛生面上も基準がないため、大きな事故に繋がる可能性があります。例えば、2009年3月には群馬県渋川市にある無認可介護施設で火災が発生し、10人が亡くなるという事故がありました。高齢者160人が暮らしていた東京都内のマンションでは、2012年の冬にインフルエンザ・ノロウイルスの集団感染が発生しました。
無認可介護施設が乱立する背景には、介護施設の不足や料金の高騰など、制度として見なおすべきポイントがたくさんあります。
虐待・人権侵害・いじめ
ここでは、最近注目を集めている介護の現場における虐待の現状について解説します。
介護施設での虐待・人権侵害・いじめの現状
川崎市の介護施設「Sアミーユ川崎幸町」で3人の入所者が相次いでベランダから転落したり、職員が虐待ととられる行為を行っているというニュースが報道され、介護施設での虐待の現状が注目されるようになりました。
実際、厚生労働省は介護施設における高齢者への虐待が2013年度には221件あったと報告しています。
このニュースだけ聞くと、介護職員のモラルの低下等が直接の要因と思ってしまいますが、実際には他の大きな要因があります。それは、介護の職場環境の劣悪さです。慢性的な人手不足にあるため、スタッフには多くの負担がかかっています。それがサービスの低下につながっているのです。介護賞金に十分な待遇を与えることで、これらの問題は今より改善されることでしょう。
実は家庭での虐待の数も多い
介護施設での虐待が大きくニュースにありますが、実は家庭内での虐待の現状はさらに過酷です。平成24年度の高齢者への虐待に関する調査によると、在宅で虐待と判断されたケースはなんと15,202件にも登ります。通報されない虐待等も多いでしょうから、実際は更に多くの高齢者が自宅で、家族による虐待に晒されていることになります。
実際、親など肉親が介護状態になった際に、健康だった時とのギャップや、なかなか「病気である」ということが理解できず、ついイライラを募らせる傾向にあるようです。家庭で介護に当たるのは、介護等の経験のない一般の人であるからなおさらですよね。介護疲れから、うつ状態を発症する人も多いです。
施設内でも、家庭内でも虐待等の悲劇を生まないために、介護に対する正しい知識と、適切な労働環境を整える必要があると言えるでしょう。